「源氏物語 玉鬘」(紫式部)

ホームドラマ的な本帖、物語はセカンド・ジェネレーションへ

「源氏物語 玉鬘」(紫式部)
(阿部秋生校訂)小学館

光源氏若き日に、
儚くも命を落とした恋人・夕顔。
彼女には頭中将との間にできた
娘・玉鬘がいた。
彼女は四歳の折、
乳母の夫の地方任命とともに
筑紫へ下向していて、
その行方がわからなかった。
そして十七年ぶりに
上京した彼女は…。

現代とちがって
十分壮年の域に達したのでしょう、
源氏も三十五歳となったせいか、
源氏物語の筋書きも
強烈な波風が立ちません。
刺激的な恋物語もなく、
愛憎悲喜こもごもの
政治的駆け引きもなく、
運命に立ち向かう冒険物語的要素は
すっかりなりをひそめ、
ホームドラマ的な色彩が
濃くなってきました。

本帖のホームドラマ的要素①
急に成人した娘の父親になる源氏

本帖「玉鬘」も、
源氏は父親として振る舞います。
といっても実の娘ではありません。
第四帖「夕顔」で、
生き霊に取り憑かれて悶死した夕顔と、
若き日の内大臣(頭中将)との間に
できた娘なのです。
夕顔いとおしさに、源氏はその娘を、
実の子として引き取り、
養育しようとするのです。
このとき玉鬘21歳。

気の毒なことにこの玉鬘、
筑紫では下品な地方豪族に言い寄られ、
身の危険を感じたために
急遽舟で上京したのです。
以前夕顔の女房で、
今は紫の上に仕えている右近が
長谷寺へ参拝したおりに、
たまたま見つけ出されたのです。

面白いのは右近から玉鬘発見の
知らせを受けた源氏の反応です。
「容貌などは、
 かの昔の夕顔と劣らじや」

(顔かたちはかつての夕顔と比べて
劣っていないだろうね)
「をかしのことや。
 誰ばかりとおぼゆ。この君と」

(それはいい。
で、誰くらいの器量かな。
この人(葵の上)くらいかな)
まずは容姿から入る。
こうしたところが源氏であり、
ホームドラマ的です。

本帖のホームドラマ的要素②
完成した六条院での大家族物語

その玉鬘をどこに住まわせるか?
源氏は頭を悩まします。
紫の上の南区画では、
紫の上が嫉妬するに決まっている、
秋好む中宮の西南区画では、
女房たちと同列にみられて不憫だ、
というわけで、結局人のいい
花散里に預けることになるのです。
こうして六条院での
女たちの生活の様子が
さりげなく紹介されているあたりも
ホームドラマ的です。

本帖のホームドラマ的要素③
忘れかけられている女性も登場

六条院ばかりが
脚光を浴びてしまうのですが、
源氏は二条院にも引き続き
女性を囲っているのです。
さりげなく触れられるのは
空蝉と末摘花です。
空蝉の消息が語られなかったのですが、
尼となった彼女を源氏が庇護している
様子がこの帖からわかります。
また、相変わらず
とんちんかんな対応をしている末摘花が
読み手の笑いを誘って
この帖を閉じます。
こうしたあたりも何ともいえず
ホームドラマ的です。

物語はいよいよこの玉鬘、
そして源氏嫡男・夕霧、
頭中将の息子・柏木などなど、
セカンド・ジェネレーションへと
移行していくのです。

(2020.6.13)

JamesDeMersによるPixabayからの画像

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